先日、ある会社の社債が発行されるということで申し込みを受け付けていました。
パッと見ると利率が10%となっているではありませんか。
債券というと安全なイメージがあります。まず元本割れしないというイメージです。実際には国債でも元本割れしないという絶対的な保証はないわけですが、まあそういうイメージだと思います。
利率が10%というと、ジャンク債というか、それなりにリスクの高い企業なのかな?と思い調べてみると、確かに新興企業というか、これからの会社という感じではありました。それでも悪くはないなと思いました。
それでも何か引っ掛かるなと思い、条件を見てみました。
参照株式 | A社 |
利率 | 年10.00%(税引前)/ 7.968%(税引後) |
期間 | 1年 |
ノックイン判定基準 | 当初価格の70% |
早期償還判定水準 | 当初価格の105% |
当初価格 | 2021年○月○日の参照株式の株価終値 |
申込単位 | 10万円 |
まあ、大体こんなようなことが書いてあったわけです。
年利10%とは言いつつ、税金を引かれると8%弱になるか、まあこれは仕方ない。期間は1年、期間は短いけど利率がいいし、そんなものかな。ノックイン??あれ何だろう。気になる用語が出て来ました。
改めて債券の種類を見てみると「円建 早期償還条項付 参照株式株価連動債券」と書いてありました。株価連動債って普通の債券じゃないよな?安全なものだっけ?ということで調べ始めました。
早期償還条項付 参照株式株価連動債券
例えば10万円分の債券を買ったとしましょう。
一般的(と思われる)債券だと1年後に、元本の10万円と10%の金利である1万円の計11万円が還ってきます(税金は無視しています)。
ここで「株価連動」という言葉が出ています。ここでいう株価とは、当初価格とされる日のA社の株価が基準になるということです。
仮にA社の当初価格を1,000円としましょう。
早期償還条項については、判定水準が当初価格の105%となっています。つまりA社の株価が1,050円となったなら満期の1年に満たなくても償還される、つまり元本が還ってくるということになります。
この場合、利子はどうなるのかというと、その日までの利子がもらえるということになります。例えば半年後に償還になった場合は、5%分の5,000円が還ってくるということです。
ここまではいいでしょう。気になるのはノックインなる用語です。
ノックイン判定基準が当初価格の70%というのは当初価格1,000円だったA社の株価が1年の間に700円以下になることがあった場合のことで、この時にノックインとなるわけです。
ノックインと判定されてから、償還日である1年が到達したときに、A社の株価が当初価格を下回っていると元本割れが発生するということになります。
例えば償還日に株価が700円だったとします。この場合は10万円×(700÷1,000)=7万円となります。また600円だったら同様に計算して6万円となります。
ちなみにノックインが発生しても早期償還となれば100%元本が還ってくる、償還日に株価が当初価格を上回れば元本の100%超で還ってくるなど、色々と条件があるようです。この辺はしっかり説明を読み納得の上で購入するべきでしょう。
さて期待通り元本と利息10%が還ってくるのはどういうケースかと言えば、株価が当初価格より5%以上上がらず、30%以上下がらないという条件になってきます。
これらを知った上で買うべき商品か?
株価が5%上がったら早期償還となります。この場合元本は戻ってきますが、どのくらいの期間保有したかによって利息は変わってきます。
先程の例ならば半年以上経ってからの早期償還であれば5%を超える利息があるので悪くないでしょう。
しかしもし債券ではなく株式を購入していたら5%の差益を得ることができます。
もし株価がさらに上がって20%になったとします。株式を購入していれば20%の差益を得ることが出来るのに、債券を買っていた場合は利息しか手に入りません。償還期限ギリギリにあったとしても10%までしか利息としてはもらえないのです。
逆に株価が下落した場合を考えましょう。30%以上下がってノックイン価格に到達した場合、償還日に当初価格より株価が下であれば元本が減ってしまいます。株価によっては利息を加味しても損になることでしょう。
発行体となる企業にも寄るでしょうが、1年で株価が5%上がることなんて、よくあることでしょう。また悪いニュースや昨年のコロナショックのような事態があれば急激な株価変動により30%を超える下落なんてこともあり得る話です。
そう考えるとメリットが少ない割にデメリットは大きい、ハイリスク・ローリターンなのでは?と思ってしまうところです。そう思って私は件の債券購入はしなかったのでした。
株価が5%も上がらないだろう、でも30%も下がらないだろうという自信があれば購入を検討してもいいのかもしれません。でも個人的にはあまり購入する理由が浮かばないなあ、というか分からないものには手を出したくないなあという印象です。
ところで損益の動きがオプション取引に似ているなあと思っていたのですが、株価連動債のような商品は債券とデリバティブ商品の組み合わせでして、そういう商品を仕組債といいます。そういう組み合わせにより「利回りが高く見えるようにした債券」となっています。
商品を売る側にはメリットのある、つまり儲けることが出来る商品のようです。一方、買う側にとってメリットがあるのかと言われると(ないとは言いませんが)悩ましいところです。もちろん商品の特性を分かっている人の中には儲ける術があるのかもしれませんが。
見た目の利回りに惹かれて安易に買っていいものではないと思います。キチンとリスクを理解した上でそれでも買うメリットがあると判断した人が手を出す商品なのではないでしょうか。