「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」というスマホゲームがあります。
✳︎以下FFBE 幻影戦争
このゲーム内で6月29日に「不当景品類及び不当表示防止法第七条第一項の規程に基づく消費者庁の措置命令」という中々に重苦しい表現のお知らせがありました。
スマホゲームではお馴染みのガチャですが、これが問題になったようです。過去に提供されたガチャが景品表示法の「優良誤認」に該当するということでの措置であった、とのことです。
優良誤認について
www.caa.go.jp
ゲームのユーザーが思っていたよりガチャの結果が不当に悪いということになるでしょうか。
ユーザーが思うということは、ユーザーが勝手に期待していたより悪いというのではなく、ガチャに関するゲーム内での記載が不当であったことに起因するということです。
ゲーム内のお知らせではガチャについて
召喚は1回ごとに、その提供割合にもとづいて抽選を行います。
としています。
しかし実際にはこの通りではなく、以下のような形で抽選されていたとあります。
提供割合に基づいてランダムに配列した2種類のリストが作成され、2種類のリストのうちどちらを適用するかが抽選される。
適用されたリストの並び順に基づいて連続するアイテムが10枠分提供され、次以降の一般消費者は、前の消費者の結果の続きから、連続するアイテムが10枠分提供される。
ということで、消費者庁から指摘を受けたわけです。この件は確率に関する興味深い話だなあと思い取り上げてみました。
独立事象
全てのゲームにおけるガチャが同じ考え方かは分かりませんが、ガチャって「召喚は1回ごとに、その提供割合にもとづいて抽選を行います」という
考え方かなと思っています。
現在、FFBE 幻影戦争で実施されているガチャの確率は以下のように示されています。
UR | 2.00029 |
SSR | 8.00604 |
SR | 31.42703 |
R | 8.57101 |
上の方ほどレア度が高くて、多くの人はURを目指してガチャを引いているわけです。
上記割合だと100回ガチャを回すと2体くらいURが出るのかなあという気がします。
でも実は1回ガチャを回すごとに上記確率で抽選されるのですから、極めて確率は低いですが100回ガチャを回して100体のURが出ることがあってもいいはずですし(限りなく0というか、でも0ではありません)、1体のURも出ないことだってまあまあの確率であるはずです(13%強あるかと)。
これは毎回2%強の確率でURが出ることになっているから起こり得る話です。
こういう確率のことを独立事象といいます。1回目のガチャと2回目のガチャが互いに作用しない、つまり確率が変わらないことです。
独立事象については、よくサイコロが取り上げられます。1回目も6回目も振る事に、どの目も常に6分の1の確率で出るような事象です。
✳︎均等に目が出るキチンとしたサイコロであること。
独立事象の逆、つまり前に行った行為が次の行為の確率に影響することを従属事象といいます。
これまたよく出る話ですけど、箱の中に赤い玉と白い玉があります。それぞれ5個ずつ入っています。
箱の上に穴が空いていて、手を突っ込んで玉を取って見ましょうということをします。この時箱の中は見えないようになっています。
最初に赤い玉を取り出す確率は50%(全部で10個うち赤い玉5個)です。
ここで赤い玉を取り出したとして、それを箱に戻した場合、次に赤い玉を取り出す確率は相変わらず50%です。これが独立事象です。
一方、赤い玉を箱に戻さずにまた玉を取り出します。この時に赤い玉を取り出す確率は約44%(全部で9個うち赤い玉4個)になります。
つまり前に玉を取った行為が、次に玉を取る行為の確率に影響しているわけです。もし1回目に白い玉を取っていたなら、2回目に赤い玉を取る確率は変わって約56%になっています。これが従属事象となります。
こういった話があることを念頭に次の話に進みましょう。
ランダムに配列したリスト
FFBE 幻影戦争のゲーム内で説明で「ランダムに配列した2種類のリスト」が作成されるとあります。
まずこれがピンとこない方もいるかもしれません。
プログラムを齧ったことのある方だと配列とかリストというのはすんなり入ってくる言葉だと思います。
これは2種類の箱が用意され、そこにランダムに並べられたキャラクターが入っていると思ってもらえばいいでしょう。ここで大事なのはキャラクターが順番に整然と並んでいるということです。
先ほど取り上げた10個の玉が入った箱は、並び順というものがありません。箱の中で玉はグチャグチャに混ぜられています。
しかしここで取り上げる「リスト」は先頭から順番に番号を付けて並んでいるのです。
例えば次のような形でしょう。
No | リスト1 | リスト2 |
1 | SSR | R |
2 | R | R |
3 | SR | SSR |
4 | R | UR |
5 | SR | SR |
6 | R | SR |
7 | SR | R |
8 | SSR | SR |
9 | R | SR |
10 | SR | R |
適当に並べたリストですが、こんな感じで2つのリストがあって、上から順番にURからRまでのキャラクターが配置されています。
説明によると、ガチャを回すと2つのリストのどちらを選ぶかが抽選されます。そして選ばれたリストの上から順番にキャラクターが配られることになります。
もうこの時点でおや?と思うかもしれません。
本来、独立事象であるガチャは、毎回一定の割合であらゆるキャラクターが出る可能性を持っているはずなのに、上記リストだとSSRが50%、Rが50%の確率で出るということになります。
もし10連ガチャを回した場合、1つ目は2種類のキャラクターがそれぞれ50%の確率で出現します。そして2回目以降は「適用されたリストの並び順に基づいて連続するアイテムが10枠分提供され」るわけですから、リスト1を選んだなら、2つ目はR、3つ目はSRが100%の確率で出ることになってしまいます。
次にガチャを回す人は「前の消費者の結果の続きから」提供されるわけですが、やはり同じように1回目は50%の確率でリスト1か2を選択し、10連ガチャを回すなら2回目以降は100%の確率で出現するキャラクターが決まっているというわけです。
なお前にガチャを回した人の続きからキャラクターが出現するわけですから、これは従属事象でもあるわけです。極端な話、前の人でURを出し切ってしまったら今後URが出ることはないなんて話もあるかもしれません(さすがにそういう作りではないでしょうが)。
恐らくリストに入っているキャラクターは、定まった確率に基づいて整然と並んでいたのでしょう。そして多くの人が一斉にガチャを回すので、何となくランダムな感じでキャラクターが出現していたのでしょう。あるいは人によってはURが出る確率が大幅に上がったなんて人もいたかもしれません。
それでも記載されたものとは異なる出現率で作られていたわけで、ここに金銭も関わってくるわけで、見過ごすような話ではなかったのでしょう。
この件について、儲け主義だ、悪質だ、と運営会社、開発会社を非難する記事を目にしました。確かに課金した人からすると本来とは違う商品にお金を出していたわけですから、いい話ではありません。
ただ私は制作者に悪意があったとか、より課金を煽って儲けたかったからといったものではなく、確率のことを分かっていなかっただけなのではないか?と思っています。
恐らく会社レベルで見れば、本来のあり方でガチャを実施していても、問題になったリスト式のガチャを実施しても、多くの利用者がガチャを回すことにより出現率に大きな差はなくなり、儲けもそれほど差は出なかったと思うのです。大数の法則が働くからです。そんなわけで、あえて悪意をもってリスト式にする必要性が見えないのです。
実際、どのくらい売り上げに違いが出るのか気にはなります。
同社は他にも有名なスマホゲーム作品を多く出していることもあり、何故こうなってしまったのか不思議ではありますが。。
FFBE 幻影戦争はサービスが始まった当初から遊んでいて、かなり丁寧に作り込んである、クオリティの高いゲームだと思っています。ユーザーの声を聞きながら、相当苦労されているんだろうなと想像します。
今後、こういうことが起きないように気を付けて頂いて、引き続き良いゲームを提供して頂きたいなと期待するところです。